含浸印刷(浸透印刷、サブリメーション印刷、昇華印刷)

キーボードの文字形成方法には、「二色成形」「パッド印刷」「含浸印刷」「レーザー印字」などがありますが(詳細はのぐ獣さんのKeyboard Maniaを参照願います)、今回は、最近のキーボードにはほとんど採用されなくなってしまった「含浸印刷」を紹介させて頂きます。
なお、サンプルはIBM 5576-001。Win95/98/NTでは標準サポート、裏技でWin2000やMEでも使用可能ですが、特殊な配列ゆえに誰も手を出さない不憫なキーボードです。しかし配列などは
ソフトウェア的になんとかなるかもしれませんんし、なんせ安いですから、試しにチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。
 
■印刷原理
含浸印刷とはその名のとおり、樹脂にインクを染み込ませて文字を描く手法です。具体的には、転写フィルム(ペーパー)に昇華性インクで文字を印刷し、そのフィルムをキートップにのせ、200度近くの熱と圧力で樹脂へ浸透させる、といった具合です。もしくは転写フィルムを使用せずに、キートップに昇華性インクをパッド印刷で直接転写し、その後熱で浸透させる、という方法もあるようです。

■観察
ではさっそく含浸印刷されたキートップを観察してみましょう。拡大するとインクが樹脂へ綺麗に染み込んでいるのがわかります。文字の周りが少しぼやけていますが、目を近づけない限りはわかりません。なお、右の写真のように有色の樹脂(今回はグレー)に黒以外の色を印刷すると、色が混ざってしまって少しくすんだ色になってしまいます。ただし幸いなことに、このキーボード自体が地味な色合いなので、全体の雰囲気になじんでいます。
 
キーを切断してみると、インクが樹脂に染み込んでいることがわかりますね。キートップの場合、樹脂の表面から約20〜40μmの深さまで浸透させていることが多いようです。
 
キーの手前の文字は、基本的に触れられることがないためか、パット印刷(スクリーン印刷?)となっています。
 
なお、通常のキーボードはABS樹脂などで成型されることが多いようなのですが、含浸印刷という手法は昇華性のインクを高温で転写する関係上、耐熱性の高い樹脂(PBT[ポリブチレンテレフタレート])などが使用されます。PBTはABS樹脂などに比べ硬く耐磨耗性や耐候性に優れているため、最近よくある安いキーボードのように酷使するとすぐに表面が磨耗してテカテカと光ってしまったり変色したり、ということがありません。
なお、
BigFoot系によくある「スペースキーだけ黄ばんでくる」という現象も、この樹脂の違いが原因なのでしょう。スペースキーには文字を刻印しないため、他のキートップと同じ耐熱性の高い樹脂を使用する必要性はありませんからね。

ということで、非常に耐久性の高い高品位な印字が可能なこの手法ですが、レーザー印字、パッド印刷などに比べてコストが掛かってしまうため最近のキーボードではほとんど使用されていません。しかし最近発売になった東プレのリアルフォース106がこの印刷方式を採用しています。先日
ネオテックにてこのキーボードに触れることができたのですが、キーを押し下げた際の力の変化が自然で、なおかつ最近のラバードーム系キーボードによくある底に付いた際のグニュッとした感覚がなく、軽いながらもしっかりとしたタッチでした。かなり値は張りますが、それだけの価値はある高品位なキーボードだと思います。
PCの低価格化に伴い、キーボードの品質も落ちるところまで落ちたという感はありますが、ユーザーが望めばリアルフォース106のようなキーボードもでてくるということで、こういったユーザーの声に応えてくれる企業にはほんと頑張って欲しいですね。
(2001/09/02)
 
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